物干し竿・谷山・ベクシンスキー

ぼくが今ひとり暮らししてるアパートの部屋って、
1階の角部屋なんですけど、
常夜灯あったり土地柄的にわりと治安よかったりで
住み始めて2年たちますけど、
空き巣とか何にもなく平和だったんですね。
でも先日ベランダの物干し竿がぬすまれました。
朝、洗濯物ほそうとしてベランダに出て、
「エッ」って、思わず洗濯かごを取り落としました。
声にでる。「えー、えーー」って。
まあそのときはショックだったんですけど、
すぐバイトだったのでバイトいって、
その話題でひと盛り上がりして、
凹んだけど、あくまで犬に噛まれた的な
一時のハプニングとしてとらえてたわけです。

でも晩ひとりでアパートにもどって、
部屋のドアを開ける前に、
いやな妄想が頭をよぎって、
それは、物干し竿とられたのは犯人の警告や
ターゲッティングの意味かもしれない、
そして今度は空き巣に入ってきてて、
ぼくが部屋のドアを開けたら
犯人がちょうどいて、鉢合わせしてしまうんじゃないか、とか。
急にこわくなって、おそるおそる部屋に入ってからも、
早く誰もいないのを確認して安心したくて、
風呂やトイレのドアを開けたり、ベッドの下をのぞいたり、
カーテンを細くあけてベランダをのぞいたりしました。
いままで何もなかったから油断してましたけど、
1階角部屋のぼくの部屋は、たぶんプロなら
ものすごく簡単に侵入できる。
それにもし犯人が本当に空き巣を生業にしてるやつなら、
その標的にされたのなら、
チャンスがいくらでもあるのがぼく自身わかる。
夜ねるときも、
もしかしたら今カーテンを開けたら
知らない人がベランダの中にいるかもしれないと思うと、
こわくて、まあ、ちょっと寝付きにくかったです。
しかし、なんで洗濯物もかかってない物干し竿を
とっていったのかは謎です。
後日、交番で被害届つくってもらったときに警察官にきいても、
「そんなもの盗っていかれたって話きかないですからねえ」
だって。

まあそれはいいです。
現実の恐怖って、
実際にリアルタイムで起こることじゃなくても、
想像だけで、思わずドアを開ける手や、
進む足をとめてしまえるほど、
大きな感情なんだと改めて実感。
かんがえたら当り前で、
恐怖心って、生き物が命の危険を回避するために
もっとも重要なセンサーだから。
ほかのどの感情より敏感に、大きく、反応するんですね。

それだけに、「怖いもの見たさ」って言葉があるように、
容易に感情の大きなゆさぶりを味わえる「こわいこと」には
不思議な魅力があります。
なら、ジェットコースターやホラー映画とかは、
そういう平坦な日常の中に恐怖をもちこんで、
安全にインスタントに、感情の大きなゆれを体験できる、
魅力的なエンターテインメントです。
人って、安全は大前提としても、
常に感情が波立つことに飢えているように思います。
こわいこと=本能的に感じる危険なら、
できる限りその正体を知りたくなるのも本能。
未知のままでは対処のしようがないから。
ただしそれは身の安全が保てる距離までのことで、
とすると、逆に、安全だとわかってるなら、
「こわいこと」に対して人は、
際限なく近づいていきたくなるんじゃないかって気がします。

もってまわったみたいな言い方してますけど、
谷山浩子って歌手がスゲーって話がしたい。
この人の、歌う歌詞の世界は、奇妙で、静謐で、こわいです。
恐怖をあおる直接的な表現はほとんどなく、
演奏もポップだったり幻想的だったりするのですが、
聴く者のあたまの中に入り込んでから、
じわじわと、内側から背筋をさむくさせる。
具体的な出来事の描写からくるこわさではなくって、
もっと根源的な、
子どものころ、なんだかわからずに、
夜の川べりとか、遊園地の大きな目の着ぐるみとかが
こわかったみたいな、そういうこわさです。

とかいうごたくはいいです。動画です。




おすすめは、「COTTON COLOR」(00:00)と「手品師の心臓」(25:06)
「COTTON COLOR」はファンシーな演奏と
英語の歌詞さかさ読みの変な発音の歌。
さかさになってる歌詞を逆から読むとちゃんとした歌詞になって、
“小熊が言った「まるでおとぎ話のよう」”とか、
ほのぼのとした歌詞なんですけど、
途中にある、一部日本語で歌われる部分の
バックコーラスの英語さかさ読みの歌詞の意味を知ると、
この歌全体の聞こえ方が変わってしまうという仕掛けがあります。
日本語の歌と、演奏に、バックコーラスは覆い隠され、
しかも読解しにくい英語さかさ読み。
丹念に仕舞われている部分に秘密がある。
谷山浩子の歌のこわさに関して、象徴的な曲だと思います。
もし興味をもたれたら、
ニコニコ動画にたくさん曲がUPされてるので
探してみるといいです。
実にバラエティに富んでいます。

同じ性質のこわさを持った作品として、
同時に知ったのが、
ベクシンスキーという画家。
その作品はとてつもなく精緻な細密画で、
何が描かれてるのか、何を意味しているのか、
よくわからないけど、
あんまり観てはいけない気がする絵を描いている人です。
ベクシンスキーの絵がいっぱい観れるサイトがあるのですが、
このサムネイルの絵、大サイズで観ないほうがいい気がするなあと思いつつ、
つぎつぎクリックしてしまいます。

いやー、安全なとこから眺める狂気っていいものですね!