ぶろぐ! #1

連続ブログ小説
ぶろぐ!  #1



   ■ 初投稿!!

はじめまして、ユリウミです。
友達のSにすすめられてブログというものをはじめてみた。
うまく投稿できてるかな?
ブログというやつには前から興味はあったんだけど、
いざやってみると、何を書いたらいいかわからない……
なにか思いついたらまた投稿することにする。
それくらい良い加減なほうが楽しいし
案外そのほうがおもしろいネタが思いつきやすいと
Sが言っていた。

今回はただのテストなので
とりあえず今日はこのへんで……


      ◇

 そこまで打って、キーボードに置いた手を止める。マウスを操作し、「投稿」ボタンをクリック。
 コーヒーを飲みながら、投稿用フォームに入力した文章が「ブログ」という体裁でweb上に公開されたものを見る。
 これで自分の書いた文章を世界中の誰でも見ることができるようになったわけだ。
 初投稿したことを彼は、携帯メールで友達のS――白河に報告する。
 さっそく返信があった。

オメデトウ\(^o^)/
これでヒトミもブロガーの仲間いりだな!
めくるめくエゴイズムの世界へようこそ。。
てかいちいち報告とは謙虚だな(^v^)
さっそくチェックするわ


 “エゴイズムの世界”とはご大層だな、と彼は思った。
 ディスプレイの中の、生まれたばかりのブログを見つめる。ブログのタイトルは《KALEIDO・SCAPE ~YURIUMI's space~》。それから記事本文の横のリストスペースにあるリンクページ欄にひとつだけあるリンク先をクリックした。
 ディスプレイ上に新たなウインドウが開き、別のブログが表示される。《ナイト&マッド》――白河のブログだ。
 白河のブログは毎日更新されている。しかも毎回しっかりした記事を書いている。設置されたアクセスカウンタは「これまで663971人がここに来た」ことを示し、その数字は日に300ほどのペースで増えている。
 それでも《ナイト&マッド》の記事にコメントがつくことは希だった。
「だれか見てくれてるっていうのがいいんだよ。コメントなんか期待すんなって。まあコメあったらめっちゃ嬉しいけどね」
 と白河は言っていた。
 ブログとは基本的には一方通行なのかもしれない。記事という言い方からも、雑誌や新聞を連想させる。一方的に自分の考えや日常の出来事、趣味嗜好を発表する……それはたしかにエゴと言えなくもない。でもやっぱり大層な気がする、と彼は思った。だって、コメントとか具体的な反応はなくても、誰かが読むということは、そこに意志の疎通、通い合いがあるはずだ。
 彼――松田ヒトミは高校3年生だった。
 受験シーズンの真っ最中だが、なにか良い息抜きはないかと白河に相談したのがブログをはじめるきっかけだった。勉強ばかりしていると、頭は冴えるのだが、それを数式や英訳にばかり使うのはもったいないような気がしてくるし、気が滅入ってくる。だから息抜きとしてブログで気軽に、思いつくまま文章を書くというのは、自分のニーズにあっていると思った。気楽な思考、自由な思索……。
 なにを書いてもよくて、世界に公開されるのになにも気負わなくていい。見たい人だけ見ればいい。
 ヒトミは文章を書くのが好きだったし、自身も持っていた。だからここで好きに書くことが、意外な反響を呼び、共感してくれる人が現れ、それが増えていき、ブログがきっかけとなっていろんな出会いが訪れることだろう。なにせ世界に開かれている。
 ヒトミはわくわくしながら、ブログに何を書いていこうか、と思いを巡らせる。そうすることはとても楽しかった。とりあえず毎日、内容は少しでもいいから欠かさず更新しようか。
 時計をみると午前2時だった。明日も学校だから、ヒトミは寝ることにした。