ねつですね

夏は暑い。熱い。

別に、春熱秋冬でも違和感感じないと思う。

たぶん気付かない。

慣れませんね。

冬の寒さもそうでしたが、

夏の暑さもまた、

あれーよく耐えたな去年の自分、って思います。

人間の学習能力ってそんなもの?

1年で過去に体験した暑苦しい季節を忘れるとは。

知識としては残るけど、

どのくらいつらかったかは、

すっかり忘れてますね。

冬のおわりごろ、ダウンベスト買って、

これから暖かくなるけど

これベストだから、

夏になってもTシャツの上に着れるやん、

オシャレやん、

と思ってた。

バカかと。

ブリーチ風に言うなら、

莫迦か……。

20数回経験してきた夏の

攻撃力をすっかり忘れていやがる。

人間の、今のことしか頭にない加減が

よくわかりますね。

とか書いてから、絵の一枚でも載せれば

おさまりが良い気がしますが、

そんなもんないので、

小説もどきの落書きでも載せます。

厨二小説がテーマです。

長いくせに途中でおわっているよ!


【厨ニ小説(仮)】

 俺の名前は納谷悟朗(なや・ごろう)。本名ではない。

 いやあね、ホワイトローズ騎士団ってサークル活動もさかんじゃないですか。で、レクリエーションサークルっていうのに俺、所属してるじゃないですか。ざっくりしたサークルだよね。で、まあ、草野球をした。

 おらが国、ハミングバーガー王国の首都バルバムングスフィにある“「平和と自由と友愛のこころをはぐくむ真っ白な画用紙」国立公園”(死んだタコみたいな形をしたどでかい遊具があるので通称“タコ公園”)の運動広場で、草野球の紅白戦をやったのだ。

 で、俺は野球なんかやったことないんだけど、持ち前の運動神経で大活躍――すると思ったら相手のピッチャーが更に輪をかけた持ち前野郎で、どぎついストレートを投げてくる。そいつの名前は、ええと、ポーランサス・パープルピープルという立派なお名前だ。仲間には「打ち取れるぞ、パ行」「ええぞ、球走ってるぞ、パ行」とか言われてたな。

 まあパ行の球威はすごい。俺の天才的バットコントロールを駆使してジャストミートしても、内野ゴロに取られるのだから相当なものだ。というか俺の全打席内野ゴロだった。

「おめー、内野ゴロばっかりじゃねえかよ」

「よお、内野ゴロくん。外野フライくんになれるようがんばりたまえ」

 それで、そんなふうにからかわれるようになったんですねえ。内野ゴロくんて。

「内野ゴロ先輩っ! これ、タオルつかってください」

「おい内野ゴロ、エメ・エメラルドフィールド(コカ・コーラのことだよ)買ってこい。ていうかなんか内野ゴロって言いにくいわ。いいにくいじゃねえかよ!」

納谷悟朗で良くないすか、ブラウン先輩」

「おお、それでいいや。おい納谷、エメ買ってこいよ」

 ここまでは、どうでもいい俺の名前の由来の話だ。どうでもいいついでに言うと、ブラウン先輩は、後頭部がでっぱってるのがブラウン管テレビみたいなので俺がブラウン先輩と呼びはじめた。彼の本名はニャンコバル・ミニミニスキーというとても立派なかっこいい(笑)お名前なのだが、本人は気に入ってなくて、まあ彼はホワイトローズ騎士団イチの巨漢で筋骨隆々ごり押しパワーファイターなものだから、名前とのギャップが悩みらしく、俺がブラウン先輩とたわむれに呼んだとき、

「納谷、おめえ……オレをあの“伝説のシールドナイト”であり“水牛荷馬車戦争の英雄”の名で呼んでくれるのか」

 とか言って、それは故ブラウニング・ヴーブラウニック元近衛騎士隊長のことを言っていて、その場はまあそういうことにしておいたけど、皆はブラウン管のつもりで呼んでいる。

 俺は騎士団では下っ端の歩兵だ。まだぺーぺーなんでな。それでもホワイトローズ騎士団の一員になれたというだけでもおらが国的にはかなりの栄誉であり、親族的にはまわりに自慢してまわりたいくらいのトピックだ。

 もちろん俺自身誇らしく思っていて、騎士団入りが決まったとき、友人たちにも報告した。友人たちは平均年齢5才だ(俺は15才な)。

「ほへー、ほへー」

「そうだよ歩兵だよ」

「ほへーかー」「ほへーって騎士団の?」「すげー納谷のにいちゃんすげー」

「まあなあ、かわいいなあお前たち」

「ほーへー! ほーへー!」

 友人たちの歩兵コールに俺は、我が身にたまわった栄誉をかみしめるのだった。でもたぶん幼い友人たちはあんまり意味わかってないんだろうなあかわいいなあ。

 歩兵の一日は忙しい、訓練、掃除、警ら、城の玄関で立ちんぼ、国王謁見の間で立ちんぼ、バルバムングスフィ検問で立ちんぼ、それからサークル活動だ。主な仕事は直立不動しとくだけなんだけど、やりがいのある仕事ですよ。ああもう、代わりにマネキンでも立たせとけばよくないですかねえ、というのはもちろん建前だ。

 今日、謁見の間で職務に励んでいるとき、すぐ隣で同じく職務に励む同期のノンロナゲル・メリノリノがこんな話をしてきた。彼はオシャレ歩兵・ノンノと呼ばれている。マシだなあ納谷よりかは。

 ノンノは俺にだけ聞こえる声で、

「おい納谷、知ってるか?」

「しっ、なんだよ、王様や衛長に聞こえるぞ」

「まあ聞けよ。あのな、今日ついにあいつが謁見にやってくるらしいぞ」

「なにっ!?」

 王の玉座の背後からにらみを利かせる衛長がちらりとこっちを見た。おっと、まずいまずい。俺は声をおさえた。

「ほんとなのか?」

「ああ、今朝のトイレ掃除のとき王様と大臣が個室にいてさ、個室の壁ごしにふたりが喋ってるのを聞いたんだよ」

「ついに、なのか……」

“あいつ”というのは“勇者”のことだ。王国にふるくからある伝説は誰でも知っている。

 曰く、

 この世が平和と呼ぶにはあまりにも雑然とし、

 ところによっては争いごとが絶えず、

 争いごとがないならないで小競り合いはあるしで

 大人たちの胃に闇の空洞が開いたとき、

 勇敢なる者あらわれ世界を闇から解放するであろう。

 預言者によると、この伝説はそのままの意味ではないらしい。別にストレス社会から人々を解き放つ大きなお祭りをやろうよと誰かが言いだすとかそういう話ではなく、平和な世をおびやかすモンスターどもを統べる魔王を討ち滅ぼす者があらわれるということらしい。で、そいつが“勇者”である、と。

 モンスターねえ。たまに街にくる野熊はこわいし、田舎に帰って久々に山に遊びにいったら見たこともないでかい虫に遭遇してびびることはあるけど……モンスターってなんのことを言ってるのだろうか。魔王ってなんだ。芋焼酎のことかな、モンスターって酔っ払いのことかな。

 しかし、俺も多感な15才で、騎士団の一員で、そういう伝説にこころ踊る気持ちは持ち合わせている。うさんくさいが伝説を信じたい思いはあって、だから勇者が来ると聞いて、ちょっとうれしくなってしまった。イチ歩兵の俺には関係ないだろうけど、勇者がいるならモンスターや魔王もいて、勇者の大冒険がはじまるんだなあと想像するだけでしばらくの間は、立ちんぼするだけの仕事のいい時間つぶしになりそうだと思った。

 まあ正直、こう、勇者さんが本当に今日来てさ、なんでか俺に目をとめて勝手にあちらさんが運命感じて、冒険の旅に連れ出してくれたらいいのになあうっとり、とは思う。

 なんか勇者が、「キミ、いいね」「えっ」「いっしょに冒険しないかい?」「えっえー俺!?」「そうキミ」「いやえでも俺内野ゴロばっかり打ちますよでも守備がんばりますけど」「野球かあいいね野球、あっはっは、でも野球はやらないよ、あっはっはっは」「えへへ。明るい人だなあ、いっしょにバーベキューしたいなあ」うん、楽しそう。

 ――とか妄想してると、玉座の間のでかい扉の外にいる番兵の声がした。

「謁見でお待ちのお客様入られまーす!」

「かしこまりましたー!」

 ぎぃぃー、とこれは扉の開く音。

 ブラウン先輩と剛腕ピッチャーのパ行に先導されて、見知らぬ青年が玉座の間へと足を踏み入れた。

「納谷……」と呻くように俺の横に立つノンノ。

 ノンノが何を言いたいのかわかったが、俺は返事をする余裕を失っていた。

 ふたりの同僚に伴われて現れた青年のその姿に対して。

 そいつは、なんというか、あれ?って感じだった。魔王を討つ勇者って…あれ? つまり、頭にでかい角が生えていた。水牛のような、でももっと鋭い角が二本。整った顔は精気が感じられないほど無表情で、というかほとんど灰色をしている。漆黒のマントをまとい、下に覗くのは血のように真っ赤な鎧で、装甲のところどころに意味不明なトゲがたくさん生えていた。

 そう、他のやつがどう思ってるか知らないが、そいつは俺のもっていた悪魔とか魔王とかのイメージぴったりだったのだ。

「勇者のファッションセンスってチンピラくさいのな」

 などとノンノは言っている。あれ? そんな反応? やっぱり俺がおかしいのか。俺には悪魔にしか見えない。灰色の顔と暗く沈んだふたつの黒瞳からは、そのいかにもな格好がコスプレかなんかとは思わせないだけの説得力があった。そいつが堂々と、勇者として、玉座へと歩いていくのだ。

 王様、にこやか。よく来たね、みたいな顔をしている。大丈夫ですか?

 まあ何かあれば衛長とここにいる先輩衛兵たちが何とかしてくれるだろう。というか、まあ、きっとこの不安は俺の妄想で、結局なにもおこらないんだろう。それもおもしろくないけど、まあそんなものだろう。

 黒マントの青年が王様の目前で立ち止まり跪いた。

「国王。お招きにあずかり光栄でございます」

 声がちょっとだけ、見た目のイメージに対して高かった。うわ。これもイメージ通りだ。悪者は平均よりちょっと声が高いというイメージ。俺の。

「顔をあげるが良い。楽にしろ」

「は」

 王様の表情がきりっとした。王様が仕事するときの顔。いわゆる王づらだ。さすが国王。オーラがある。

「もう話は聞いていると思うが、今日呼び出したのは他でもない。お前があの伝説に登場する勇者だと知ってな。勇者があらわれたということは魔王も既に暗躍しているということ。国を統べる者達としてわしは早急に手を打たねばならんのだ」

「もちろんそのつもりでございます」

「して……伝説の勇者に対してぶしつけなことと思うが、証拠を見せてもらいたい」

 そこで黒マントは沈黙をはさむ。王様もバカではない。いや当たり前だが。やっぱり証拠もなしに勇者であると判断はできない。しかし黙った青年の顔には、動揺の色は少しもみられなかった。むしろ、逡巡しているふりをして何かを待っているかのような――

「! うっ」

 なんだ? 青年の背後に控えたブラウン先輩がうめいた。頭痛でもするのかしかめっ面になっている。

「どうしました?」

 その横にいるパ行が心配するそぶりを見せる。

「いや、なんでもない。何か耳鳴りがしただけだ」

 ブラウン先輩は耳がいい。野獣みたいな風貌をしてるから、五感が野獣ばりに鋭いのだ。きっと何か聞こえたんだろう。他の人が気付かないほど微細な音を。

「国王」

 青年が立ち上がった。

「証拠をお見せしましょう」

 と――

 ケェェェーーーーッ――

 玉座の天井を抜けた上空から怪鳥音というべき鳴き声のようなものが聴こえた。続いて、聞こえたのは轟音だった。天井が落ちてきた。

「うわっ」「なんだ!」「王っ、あぶない!」

 衛兵たちに一気に緊張が走った。分厚い石造りの天井ががれきとなってふってきたのだ。あっと言う間に玉座の間は大きな石の塊と、落下の衝撃による砂埃で覆われた。見上げると天井に大穴。穴から見えるのは空ではなかった。鳥。人間の10倍もの大きさの巨大な鳥が、その長い首を伸ばして天井の穴からこちらを覗き込んでいた。なんだこの生き物は。こんな大きな鳥みたこともきいたこともない。

 俺はノンノとともに、なんとかがれきの落下を避け、壁によりかかっていた。砂埃もおさまってきた。周りに人の気配がして、死傷者はいないということがわかる。玉座の方をみるとがれきで無残にもつぶれた玉座の後ろに、衛長にかかえられた王様が見えた。

「大丈夫ですか! 王様!」

「ああ、怪我はない。いったい何が起こったのだ」

 衛兵たちは「大丈夫か、無事か」「襲撃だ!」「なんだあの鳥は!?」

 と色めきたっている。

 その中で騒ぎの前と変わらない者がいた。黒マントの青年。あいつだけが、さっきと同じ場所に立っている。落下したがれきがまるで彼を避けたかのようだった。そして何もなかったかのように、すたすたと歩きだした。王のもとへ。

 この異質感。明らかだった。こいつがあの襲撃者――怪鳥を手引きした。おそらくブラウン先輩が耳鳴りと勘違いした音は、こいつが発した、怪鳥に対するなんらかの符丁だったのだろう。

「おい止まれ!」

 衛長が抜刀して黒マントの前に立ちふさがる。百戦錬磨の戦士の放つプレッシャーにも黒マントは動じず、歩をゆるめなかった。

「止まらぬのなら――」

 と衛長が攻めのために重心を前に乗せたとき、黒マントが右手を横に払った。空中の蝿を退けるように。それだけなのに、次の瞬間には、衛長の体が壁にめり込んでいた。気を失って剣を落とす衛長。

「ひっ」

 恐怖におののく王様。そのときには黒マントを止めようと十数人の衛兵がそいつに殺到していて、今にも斬りかかろうとしていたのだが、それを阻止したのは、炎だった。天井から落ちてきた火球がだんごになった衛兵たちの真ん中で炸裂し、膨れ上がった業火が彼らをふっ飛ばし、焼いた。俺は天井の穴から睥睨する怪鳥の口が炎をくすぶらせているのを見た。悲鳴を上げながら彼らは玉座の間の一角に設けられた噴水池に次々飛び込んだ。

「ひぃぃっ」

 王様は絶望的な気分だったろう。俺とノンノは戦意喪失していたから、何もできないし。

「……」

 難なく王様を追い詰めた黒マントは、無造作に王様の高貴な衣装の襟首を掴んで、片手でつるしあげた。そしてもう片方の手で、王様の頭をわしづかみにした。王様オワタ。

 最初は抵抗して暴れた王様だったが、頭を掴まれると、突然脱力して、両手をだらりと垂らした。

 そして俺は驚くべきものを目にする。この一連の騒動もそうだが、これが一番驚いた。やつに掴まれた王様の体が発光しだしたのだ。服で覆われていない顔や手がまばゆく輝き、見る間に小さくなっていったのだ。頭も手も服の中にひっこむようにして消えていき、服の膨らみもなくなっていった。

 王様の頭に乗っていた冠が、からん、と空虚な音をたてて落ちる。残ったのは黒マントに襟首を掴まれた衣装だけ。

 意識の残っている衛兵たちが驚愕の表情でその様子を見つめていた。どうにかしたくても彼らにもうその体力はないし、まだ天井には怪鳥が睨みをきかせている。

 俺も相当まぬけな顔をしていただろう。

 ――と、黒マントの持つ服の中で何かが動いた。服の中に何か小さな生き物でもいるように。その気配はパンツの裾から外に飛び出した。

 ぴちっぴちっ

 それは魚だった。王様の服の中から魚が出てきて、床ではねていた。まさか! 王様がおさかなにされたのか!?

 黒マントの仕業だろうか。そうに違いない。なんでもできるやつめ。

 黒マントは、魚に一瞥をくれただけで踵を返し、玉座の真ん中で歩みを止めた。天井を見上げる。

「……」

 扉のあたりでのびているブラウン先輩がぴくりと動く。また怪鳥への符丁だ。鳥は、キエッと鳴いて、長い首を黒マントへと更に伸ばした。床に届きそうだ。恐ろしくよく伸びる首。きも。

 怪鳥に乗って飛び去ろうというのだろう。もう行くなら行ってくれ。はやく。俺は黒マントと目をあわせないように、全力で戦意喪失キャラを演じた。まあほぼ演技なしだが。

 なんとなく、俺はちらっとだけ黒マントの方をみた。びっくりした。天井から垂れた怪鳥の長い首の横に立つ黒マントとめちゃくちゃ目が合った。完全にこっち見ていた。

「まだ無傷な者がいたか」

 とか言って、こっちに歩いてきた。やめてください。

 ちらっと横のノンノを見るとうつぶせになって寝ていた。さっきまで俺といっしょに壁際にもたれて座ってたのにこいつ。

「新米兵士か」

 言いながらどんどん近付いてくる。そして目前で立ち止まる。もう目をそらしてても仕方ないので、ちゃんと見た。というか、こわくて視線を別のところに向けていられなかった。

「見せしめのための襲撃だったが」

 勇壮な玉座の間のなれの果て、がれきを背後にして立つその男――黒いマントも真っ赤な鎧も、なんて不吉でまがまがしいんだろう。何より灰色の顔に穿たれた闇そのものといった、その目だ。生きた人間と対しているという気がしなかった。人間じゃないから測れない、理解できない。わからないものはこわい。俺、こわいです。

「見せしめというのならひとりくらい殺しておいた方がいいだろう」

 声ちょっと高い。悪者の声。ちょっと高い声ってなんとなくあぶないヤツっぽい。こいつはマジだ。俺のイメージは大当たりだった。

「それには歴戦の老兵より、明るい未来を疑わないお前のような夢見る若者が良い」

 未来とか、夢とか、似合わないことを言うやつだ。

「なに?」

 なにがでしょうか。

「やけになったか。恐ろしくて動けないくせに減らず口をきく」

 さっきのが声にでてたようだ。ひい。謝らないと。

「すっすすすす」

 喉がふるえて謝れなかった。

「フン」

 鼻で笑われた。笑うなら楽しそうな表情をしてほしい。

 そういえばと王様の方をみる。もと王様の現魚。うわあぶない。ぴちっぴちっ、が、ぴち……ぴち……て感じになってる。と思ったら影が魚に素早く近づき、その魚体を掴んだかと思うと、玉座の一角の噴水池に向かってオーバースローした。剛腕ピッチャーのパ行だ。俺に向かって親指をたてるパ行。お前元気だな。しかし仮にも王様をオーバースローするのはいかがなものか。そして役目を終えたパ行は死んだふりをした。こいつ。

 ――と、よそ見してた俺に向かって黒マントは右手を突き出した。真っ赤な腕の装甲が生き物ように蠢き膨張し右手を覆うと、変形して5つの爪となった。5本の指に生えた、肉を裂き、えぐるための爪。しかも、どういう意味があるのか刃の部分がイカせんべいか雲型定規のように変な形をしていてそれがまた痛そうなのだ。

 俺はもう、歯ががちがち言ってる。仕事前にトイレ行ってて良かった失禁はしてない。でも涙と鼻水はアホほど出た。尿にいく水分がこっちきてるわけかなるほど。俺はいま混乱しています。

 黒マントはイカせんべいの爪を構える。

「ひいっひいいいいい」俺。死ぬ死ぬ死ぬ。