銀河帝国の弘法も筆の誤り

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)
銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)
田中 啓文

活字っていう媒体は、それ自体が大真面目だと思います。
紙面に整然とならぶ文字。フォントも古くからある明朝体だったり、
まあだいたいがキレイな字ですよね。
半分思いつきみたいなこと書いたいい加減なレポートも、
ワードに入力して、フォントはMS明朝とかで、
四方に多めの余白を取った白い用紙にプリントアウトしたら、
なんか立派なこと書いてあるように思ってしまいます。
活字は大真面目。
これは、この媒体で思い切りふざけてください!
と言ってるようなもので、ぼくには活字が、
笑いの定石“緊張と緩和”をやるための絶好の土台に思えてなりません。
ぼくは、大いなる無駄遣いというか、
ものすごい技術をものすごいしょうもないことに
傾けたような作品とかが大好きですし、
自分でも作りたいと思っています。
この田中啓文という小説家は
そんなぼくの理想を体現してる人です。
「S-Fマガジン」誌上で連載中の「罪火大戦ジャン・ゴーレ」を
半ページ読んだ時点で、これだ! と思いました。
内容と関係ない作者がただやりたいだけであろう
演出がやたらと多いです。
大真面目な活字媒体で
ものすごくしょうもないことをプロの筆力をもって書く!
それを地でいってます。
(もちろん息を飲むようなシリアスな作品も
たくさん書いてらっしゃいます)

で、この「銀河帝国の弘法も筆の誤り」ですけど、
上記の無駄遣いが特に顕著な短編集です。
一番おもしろかったのは表題作です。
外宇宙の知的生命体から「そもさん!」と禅問答が送られてきて、
答えを出さないと侵略するというので、
《人類圏》は伝説の高僧・弘法大使に助けを求める。
というお話。
登場人物全員に緊張感がありません。
他の短編は、内容を説明しておすすめする感じじゃないので
割愛しますね。
(表題作もしかりですが、部分部分がおもしろいですし、
すさまじくよく切れるフォークボールみたいなもので、
途中までの話を紹介しても仕方ない感じです。
それともぼくの説明が下手なだけなのか)

活字や小説はふざけるための土台だと思っていて、
SFと落語が好きな人は、ぜひとも読んでほしいです。