人間としての勝利

ぼくは今酔っています。
何にかっていうと勝利に酔っています。

去年の今頃、
ある大きな敗北を喫しました。
ぼくというキャラクターでもなく
役職でもなく、
全くのぼくという人間自身の敗北に、
そのとき強い屈辱と悔恨を抱いたのを
今でも覚えています。

去年の敗北っていうのは、
ショッピングモールにテナントで入ってるバイト先で
閉店作業してるときに、
隣のテナントのソフトクリーム屋の女性スタッフが
うちを訪ねてきて、
開けないといけないバルブがどうしても開かないので、
開けてほしいというお願いをされ、
ぼくがのこのこ行って、
バルブ開けようとしたけど開かなかったっていう敗北です。
ソフトクリーム屋みんな女性でその目の前で
すごすご引き下がったこととか
自分の全霊のパワーが通用しなかったことによって、
プライドがずたずたになりました。
引き下がってそのときいた先輩にバトンタッチしたら、
簡単に開けて帰ってきましたし。

それが今日、
全く同じシチュエーションが発生しました。
今日も閉店作業をしていたら、
同じように、同じ人が申し訳なさそうに、
「お疲れ様です……すみません、ちょっとバルブが
開かなくなってしまって……」
この瞬間、ぼくの精神は、一瞬で、
一年前のあの日の直後のぼくになりました。
リベンジのチャンスが来た、と。
今度は、手の皮も破けよ、肉もえぐれよ、
骨よ飛び出せとばかりに、
バルブが開くまでちからを一切ゆるめないつもりで、
ソフトクリーム屋のちいさな白いバルブに
全パワーをぶつけました。
そして、
勝利をおさめました。開きました。
感激して、思わず、ソフト屋の女性方に
「実は去年おんなじようにバルブ開けようとして、
開けれなかったんですけどぉー、今度はこうしてぇ――」
とか言いたかったですが、
それはせずに
「オレはもともとこんなパワーマンだったぜ?」
って感じでその場を後にしました。

手のひらは数時間たった今も、
バルブの突起の形の凹みがあります。
体の芯に、まだバルブが開いた瞬間の、
勝利の感触が残っています。

あー、良かった。
ちょっと前バイトの飲み会でのノリで、
パートの主婦でわりと細身な人と腕相撲して
負けてから毎日筋トレしてたおかげです。

2009年ももう半年が経とうとしています。
今ようやく、2008年の亡霊と
決着を着けることができました。
すっきりしたし、そろそろ就活するか。
いや就職なんかより、
今も別のどこかで開けられるのを待ってるかもしれない
固いバルブを開けられるように体を鍛え続けるか。