アイアン小説執筆未遂

 街を南下すると海に突き当たり、海岸線は工場地帯となっている。その1キロほど手前に大型スーパーがあって、品ぞろえがいいのだ。質もいい。近所では評判。ネームバリューのある大手ショッピングモールが同じエリアに出来ても、食料品はこっちのスーパーに買いにいくっていう人は多い。「愛王」という。スーパー「愛王」。

 時刻は夕暮れどき。室崎ゴンドはディナーの買い物のため、「愛王」へ車を走らせていた。初夏の空は18時でもまだ青く、しかし道のむこう、「愛王」よりさらに南に見える空は一面くすんだ色を見せていた。林立する工場が吐き出す排気が空にフィルターをかけてしまっているのだ。それにやや臭いもする。

 この界隈の住民は別に工場の排気についてうるさく言わない。むしろもうすこし離れた地域の、でも同じ市内ではあるという距離感の市民たちが環境汚染の4文字を掲げてうるさかった。

 はっきり言って、必要な工場群である。市を支えている。近所の住民はそれがわかっている。工場に勤務している人は千人近くおり、地域の飲食店(主に居酒屋)で作業着姿の男たちが散見され、皆気のいい人物なのだという。それに工場での仕事が何のためか、何に役だっているかを誇らしげに彼らは語るので、地域住民はちゃんと実態を持って工場の価値を知ることができた。

 とはいえ、南の海岸線に目をやるといつでも見える排気のもやは、そこが決して労働環境として良くはないことを示していて、ピュウマは20歳になる息子が心配だった。息子のメタスはもやの下の工場で働いていた。

――という小説の書き出しを、

以前、製鉄会社の社員選考を受けて

結果の通知を待っているときに書きました。