そういえば赤だった

お酒というのは、

妖の飲み物だと思う。

飲むと楽しく激しく大胆になれる。

誰かと飲むと

それが何倍にもふくれあがる。

それは素敵な時間を創造する

魔法の飲み物だ。

だがその魔法には依存性がある。

それゆえに、

お酒を求める争いが起こり、

ときには法律によって

存在が許されなかったりもした。

お酒は人を虜にする。

アーマードコアの次くらいに

人を狂わせる。

狂って自分を見失い、

果てはそうして起こした行動の

一切合切の記憶をなくす。

お酒は、

人を酔わせて操り

反社会的な(場合が多い)行動をとらせ

記憶を奪い頭痛と吐き気だけを残す、

悪魔である。

デビルである。


で、ビールがうまいという話なんですが、

この前職場の何人かで

飲み会してきました。

バイト先の喫茶店の従業員の中でも

割と気心の知れた同士のメンツです。

ぼくはこの飲み会が決まったときから

本当に楽しみに毎日をすごした。

メンツが素晴らしいのだ。

ときどきメシ行ったりする

同世代のメガネ男子1名は

ともかくとして、

ひとりは書道と茶の湯をたしなむ

柔和な立ち居振る舞いの淑女。

ひとりはアラフィフにして

ショートボブが良く似合い

仕事が忙しいときなどに

髪をまとめる姿に色気さえ感ぜられる

きっぷのいい姐さん。

そしてもうひとり、

この飲み会の主役なのだけど、

かつての保育士の経験によって

身に付けたであろう

【隣接するだけでリジェネの効果】

アビリティ保持者のお姉さんである。

モモコさんという。

この方はメンツの中では一番後輩なのだけど、

パートタイムで朝イチから入っている。

で、いつもにこにこ愛嬌たっぷりで、

イヤな顔なんてほとんど見ないんだけど、

この方がシフト入ってるとき必ず被る

別のパートさんのことで、

実はけっこうストレスがたまっていたらしい。

なんでも関東からこちらに引越してきてまだ

日が浅く、

グチをこぼすプライベートの友人もいないのだそうだ。

問題のパートさんはぼくも苦手で、

たまに被るととてもお酒がおいしくなる。

まあ気疲れするということですね。

仕事したぁーっていう感じになる。

その人がイヤな人間なのではなく、

ただ、ひとり過剰にせかせかしていて

周りにもそのペースを求めるふうがあるので、

いっしょに働くとちょっと疲れるという感じ。

たまになら酒うめーで済むけど、

毎回かぶるとなるとこれは、

ちょっと深刻なのかもしれない。

そのパートさんとモモコさんの会話を聴いてる限り

仲良さ気なのだけど、

気を使ってそうしている部分もあったのだなあ。

実際モモコさんは、

ちょっと辞めようかとも考えたらしい。

それを見咎めた先輩たちが、

息抜きにと今回の飲み会を企画したのだ。

そしてぼくも誘っていただいた。

ぼくとしては問題のパートさんには感謝なのだ。

モモコさんと飲む機会を与えてくれたのだから。

他のネエさん方にはわるいが、

ぼくにとってこの飲み会は

「モモコさんとおしゃべりする会」である。

もちろん他のメンツがいなければ、

舞い上がって気軽になぞ話せないのだが。

で、メンバー5人の少数精鋭の飲み会は、

大いに盛り上がった。

職場のメンツでの飲み会は本当に久々だったので、

皆たまっている日ごろのあれやこれやもあり、

生ビールがよく進んだ。

人生で一番飲んだ。

モモコさんも飲んでいて

はめをはずして盛り上がってくれて

良かったなあという感じなのだけど、

彼女はとても飲ませ上手だった。

後半ボトルワインを頼みだしたとき、

気を利かしてお酌を

どんどんしてくださる。

相手が相手なので断れるはずもなくというか

ぼくは喜んでグラスを差し出すので、

酔いがどんどん回る。

自分は適度に飲んでまわりには

もっと飲ませる――

うまいなあと思う。

癒し系かと思ったら、とんだ小悪魔だ。

大歓迎だ。

帰りはふらふらだった。

帰路の記憶がとぎれとぎれだ。

お酒はやはり悪魔だと思う。

適度に飲めば楽しいのに、

飲み過ぎると楽しい記憶を

奪い取ろうとするのだから。

そしてこの日その悪魔を

うまく使役したモモコさんは

さしずめ黒魔道師といったところだろう。

回復魔法の使える黒魔道師。

つまり赤魔道師だ。

そういえばボトルワインは

赤を頼んでいたが、

なるほどそういうわけか。

なるほどなあー。

という話です。