ピピン 第4話

連続ブログ小説
ピピン


第4話 え?何でにらむの?


~前回のあらすじ~
 パン職人のペリフィンさんには何を訪ねても、いつの間にか奥さんのグチの話をはじめてしまうからラチがあかない!


 ペリフィンさんに僕と同郷ですかと訪ねたら、ペリフィンさんは、
「知りたいですか?そうですか、そこまで知りたいですか。でもどうしようかなー」
 と、おどけた感じではぐらかした。僕はペリフィンさんを、なんだかとてもうっとうしいと思った。
 別にちょっと気になっただけなのにそんなふうにもったいぶられると不快……
 ……いや。
 そうか。
 わかったぞ。
 僕が馬鹿だった。
 そう、たしかにぼくは、ちょっと気になっただけでそんなに知りたいわけではなかった。
 ああ!ペリフィンさんのなんと饒舌なことか。彼のちょっとした一言は実に多くのメッセージをふくんでいる。彼の言葉はまるで彼の焼くパンのようだよ。
 彼の言いたいことはこうだ。
“私とあなたが同郷かどうかなんてそんなに知りたいなんて思ってないでしょう?あなたにとって私はおいしいパンを焼く巨人。それで充分なはずです。あなたはちょっとした洒落っ気で『フィレンスカの実を食べてこいた屁をニグレシャ鉄道にすまびろすく男』を演じたかっただけなのでしょう。自分にウソをつきなさるな。雌スラバロスクみたいな男と思われたくなければね。でもときには洒落っ気が大切なのも事実です。たとえばあなたが以前アリテゴ先生の家に訪れたときに、ムタワイク広場がいかにして回転式ミュギグリスやイーラカッセ返しなどの遊びの文化を育んだかをカイエラ神殿の建築様式とイグダ虫の求愛に例えた話で気を引いていればもうちょっと違った結果になっていたかも知れませんね。それで結局なにが言いたいのかというと、何かにとらわれて自分を見失ってはいけないということです。そう、あなたが私のパンをおいしいと素直に言ってくれたときのあなたが本当のあなたなのですよ。わかったのならいつまでもこんなとこにいることはありません。お行きなさい。なに、お代なんていりませんよ”
「ほんとですか!?ではお言葉に甘えます」
 ありがとうペリフィンさん。僕は生まれ変わったよ!それにしてもお代はいらないなんて太っ腹だな、ペリフィンさんは。でもなんで僕のことあんなに詳しいんだろう?まあいいか。
 僕は足取りも軽く出口に向かい扉を開けようとした。
「あっ!こら!!」
 ペリフィンさんはその巨体に似合わぬ素早さで僕の前に回りこんだ。
 そして彼は僕をにらみつけた。
 何故だ。そして顔が怖い。


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