ライブの死ーン

 ライブが最高潮になったとき、アイドルが観客席に向かって首に巻いたタオルを投げた。
 キャーー! キャーー!
 興奮したファン達が投げ込まれたタオルにいっせいに群がった。タオルを我が物にしようと無数の手が伸びる。
 ぬぅぐわォォオオオオオオッッ!!
 混戦を制したファンの女性(首が顔より太かった)がタオルを手にしようとしたその瞬間も、真後ろにいた彼女――弛張腸唯(しちょうはらわた・ゆい)は諦めていなかった。
 唯はなんとしてもタオルが欲しかった。そのとき、彼女の集中力は極限まで研ぎ澄まされて、目の前のファンの太い首と後頭部に遮られて見えないはずのタオルが見えていた。唯の目にはタオルしか見えない。
 彼女は右腕を肩の上に引き付けてぎりぎりと弓矢のように力を込めて引き絞り、力の解放とともにタオルめがけて渾身の貫き手を放った。
 ぐぼぉっ
「キャー! やっおげぇっ!」
 タオルを掴みかけていたファンが不自然な叫びをあげた。
 唯がタオルを掴んだ手は血に濡れていた。彼女の腕が目の前のファンの頭の真ん中を貫通していたのだ。腕を引き抜くと、血が飛び散った。
 ライブの熱狂はそこから波紋が広がるように消え失せ、代わりに混沌があたりを支配した。
「……ふ、うふふ……うふふっふふふ、ふふふふ……」
 唯は阿鼻叫喚のただ中、ネイルの割れた手で握り締めたタオルを見つめ、彼女と穴の開いたファンを中心にできた人の輪の中で喜びを噛み締めていた。

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という、小説の1シーンを考えたんですけど、ちから不足で、何にどう使ったらいいか今思いつきません。でも気に入ってますよ。