本当に出さなくていい蔵出し

ブログ管理ページで
記事リストを「非公開」でソートしたら
自分でも全く覚えていない小説の
書き出しがでてきました。
なんかぼくなりの年越し企画だったみたい。
ぜったい続き書かかないだろうなーと思いますけど、
せっかくだし虫干し。

-

      正月の話


 現在元日の午前3時。3時間前に年が明けた。2008年だ。
 しかし、高野重吉にはその実感が持てなかった。
(テレビの年越し特番みてるわけでも、カウントダウンイベントに参加したわけでもないしなあ)

 びゅうううう…… ざざざざざ

 冷たい北風が吹いて、周囲の木が揺れた。
 ここは外で、山の頂上だ。道着姿の青年、重吉は身震いした。あたりは岩肌が露出していて木はまばらであるため、風がびゅうびゅう当たる。
 午前3時はまだまだ暗い。天気がいいので星と月のあかりだけが照明だった。
「例年のことだから、やるぞー!」
 傍らにいる、こちらも道着姿の老人・富田が叫んだ。重吉の武道の師匠である。男で、三つ編みおさげをふたつ垂らしている。
 「っす!」
 応じる重吉。ここには2人しかいない。重吉は心底いやな気分だった。寒いし、年取った他人と年越しだし、しんどいし。重吉は、もっとにぎやかに年を越したかった。具体的にどんなふうに、とかはないが、漠然と、にぎやかなのが良かった。
 ため息が思わず出た。
 白い息を見とがめた富田師範は、
「わかるよ。わしもたいがい、イヤというか、んー、あんまり気すすまないよね。家でのんびりしときたいけど、やっぱし大事な役割なんだから仕方ないんだよね」
 口調がすごく優しい。ガーゼのようだ。でも、だからって帰らせてくれるわけではないのはわかってるので、重吉はむしろうっとおしく感じて苛立った。
(ちっ!)
 重吉は胸中で、舌打ちした。
「んー。じゃあそろそろ始めるぞー!」
 パチモンの腕時計で時間を確認して、富田師範が言う。
「わしが、踊るから、日の出まで踊れるように守ってくれたら、年越した権がもらえるからね。重吉くんは去年これ失敗してまだ2006年扱いだから、とりあえず2007年にしようね。かなりいい感じだったら、いきなり2008年にしてもいいし、がんばってね」
「っす!」重吉、両拳を腰に添える。
 富田師範は持ってきていたラジカセの再生スイッチを押した。
 ミュージックが流れてきた。