1st ヒルクライム



ロードバイクといえば山、そしてヒルクライム
というわけで登ってきましたが、
しんどすぎて死ぬかと思った。
地図でしらべためぼしい山道に向かい、
いざ、クライミング! 諏訪!
って登り始めて、でも、
200Mほどで早歩きよりちょっと遅いくらいの速さになっていました。
軽いギアで、もうそういうペダル回す妖怪にでもなった気分で
黙々とペダルを踏み込み続けるんですけど、
だんだん足の感覚なくなるし、
あんま関係なさそうな腰の左らへんに
やけに乳酸たまるし、
とにかくすぐ停まってしまいたい。
うねる山道の急なカーブを越えるたびに
視界がひらけて、まだまだ続く坂を目の当たりにして、
絶望的な気分になります。
でもなんとか目標地点まで停まらずに登りきったときには、
よく言われる、得も言われぬ達成感や快感より先に、
吐き気を催していました。心肺に負担かけすぎた。
結局3kmの距離を登り続けたのですが、
同じ長さの下り、ダウンヒルというやつは、
こりゃ一種のアトラクションやな、
という感じで、気持ちよかった。
写真は山の途中からの景色。
林道を必死で登りながら、
ふと、木々が途切れたときに見えるこういう景色に、
登ったなーって感情を覚えます。

まあとにかくしんどかった。
でも、もう二度とごめんだという感情と同時に
次はもうちょっと速く楽に登れないかな、という感情も
芽生えてきています。
これがヒルクライムか!

ところで、うれしい出会いもありました。
今回登った山の目標地点に着いたとき、
そこで女性ロード乗りがたまたま休憩していました。
Y字路の真ん中の避難スペースに腰をおろして
ボトルからがぶがぶ水分補給しているその女性は、
足が長く、サングラスで目元は見えませんが
おおげさにいえばモデル系のシャープな顔をしてました。
こんな人もロード乗ってるのか、っていう感じです。
たぶん20代後半?
で、スペインのプロチーム《エウスカルテル》のオレンジ色の
レプリカジャージを着ていて、
傍らに立てかけているバイクは
『ORBEA』のハイエンドモデル《orca》でした。
今は休憩中でロードに乗っていないにもかかわらず、
彼女の持ってる「雰囲気」から、
かなりの熟練ロジャーであることがうかがえました。
向こうは必死に登ってきたぼくを見とめて会釈をしてきて、
ぼくはちょうど目標地点まで登りきったことによる高揚感で、
会釈をかえすだけでなく、
「ここよく走りはるんですか?」と話しかけていました。
「週に1、2回くらいだけど登りにきてます」と彼女。
で、レーサージャージじゃなくポロシャツを着てるぼくを見て、
「ロードはまだ短いんですか?」
「まだ1ヶ月足らずでして、へへ。そちらは、あの――」
「ビクトリア(仮名)です」
「あ、えー、ハーフなんですか。
 あの、もうけっこうロード乗って長いんですか?
 なかなか値の張るバイクみたいですけど」
「よく言われるんですけどこれ1台目なんです」
「へえー、銭もってはるんですな。
 ぼくみたいな奉公人に恵んでくれるおまんじゅうは
 あまってないんですかねえ」
「そちらこそ、よくここ登るんですか?」
「いや初めてなんですよ」
「ここ今は昼ですけど、朝はほんとにクルマ少なくていいですよ」
「そうなんですかー」
「わたし火曜日と木曜日は朝によくここで練習してるんで
 よかったら今度いっしょに練習しません?」
「えー!? あー、全然、はい」
「ほんま!? 来てくれます?
 あの、わたし身近に同じ趣味の友達いなくて、
 練習相手さがしてたんですよ」
「ぼくシンゴっていいます、よろしく、ビッキー」
「こちらこそ」
そのとき、
突風が吹いた。目にちりが入って思わず目を閉じた。
目を開けたとき、モデル系ライダー、ビッキーは、
バイクごといなくなっていました。
道路のすぐ先の山肌からがさがさと音がして、
そこの草むらに一瞬、
こぶし大の、茶と黒の縞模様の綿毛が見えたと思ったら、
すぐ草の中に引っ込んでしまいました。
「なんだ、たぬきか……」