せりふで秒数がわかるとかそういう

馬鹿言うなよ。オレ感謝してるんだ。

クマガヤがいなかったら

オレがフィギュアと出会うことはなかった。

思い出すよ。

あの日の朝、オレが寝坊して遅刻しそうになって、

通学路を走ってたら、

焼き魚とみそしるを口にくわえたクマガヤが

急に角から飛び出してきたんだったよな……

そしたらオレびっくりしてさ。

ぶつかりそうだったから

とっさに回転しながらジャンプして避けて、

でも運がわるいことに

着地点が凍った水たまりだったんだけど

オレは持ち前の根拠のない運動神経でこけずにすんだ。

それを見たオマエは

『な……なんなの今のジャンプの高さ……!

 それに運動靴なのに回転して氷の上に

 転ばずに着地するなんて!?

 ……こいつならもしかして……』

とか頭の中で喋ったよな。

そしてそのあと学校が終わるやいなやオレの教室に

クマガヤがやってきて

『ちょっとアンタ話があるの一緒にきなさい!』

とか言って無理やりひっぱっていくもんだから、

クラスメイトが、

『あのヤロー! 学園のアイドル、クマガヤさんと

 いつの間に仲良くなったんだ!』

『俺なんてあいさつもしたことないのに!』

『くそー俺なんてクマガヤとかいうひと

 見たこともないのにあのヤロー!!』

とか言われてる気がしたもんだったよ。

そのあと廃部寸前だったフィギュアスケート部に

無理やり入れられて、

俺は認めねえぞ的な先輩の前でぶっつけ本番で

滑らされたんだよなオマエに。

そこも脈絡のない理由による

天性の運動神経でうまくやって、

そんなこんなで今までに800回くらい、

『な…に……?』的なことを言われたんだ。

感謝してるぜクマガヤ。

その800回くらいのそういうあれがオレの糧となり

今ここにこうして立ってる。

これから大舞台で滑ることがであっ3分たった

いただきまーす!