ALC.7%の発泡酒飲みながら書いた

人は何かを犠牲にして生きていくものだ。

それは人という漢字にも表れている。

ふたつの曲線がお互いもたれあうような

形をしていますよね。

左の曲線をAとします。

右の曲線をBとします。

AはBに支えられている。

ちょっとAとかBでは

感情移入しにくいので、

A=宮村 秀治

B=夏日星 朱美

としてですね、

秀治はまあ、

九州の生まれでずっと

町工場で働いていた。

その工場で作っているのは、

リベットっていう、まあ、

釘の一種みたいなやつで、

橋とかビルとか

建築によく使われるもので、

ないと困る部品で、

工場の景気は安定してた。

秀治はその日、夜に仕事を終えて、

いきつけのラーメン屋に寄った。

「いらっしゃい! おお秀ちゃん! いつものだろ?

 餃子と白飯すぐつくるぜー!」

「いや、今日は別の頼むわ」

「珍しいね!」

「まあたまにはね……えーと、じゃあ、今日は……

 中華そばもらおうかな」

からんっ

店主がおたまを落とした音だった。

「死ぬなーっ!」店主が叫ぶ。

「え?」

「死・ぬ・なぁぁぁ!」

「聞えてるよ、どうしたんだよ?」

「お前が中華そばを頼むなんて、

 きっとなにかたいへんなことがあって、

 それで、辛くて、それで、

 これを最後の晩餐にするつもりで……!」

「はは、馬鹿な」

「馬鹿はおまえだ!」

拾い上げたおたまをびしっと秀治に向ける店主。

「中華そばの値段は……700円だぞ!?」

「知ってるよ」

「お前はいつからそんなに金持ちになったんだ!」

「いや――」

がららっ

店のドアが開いた。

「いらっしゃい!」いつもの調子で店主。

からっ

秀治が箸を落とした音だった。

割り箸ではなくプラスチックのエコ箸だから

そういう硬い音がなったということだ。

「夏日星さん……?」

来店した女性には見覚えがあった。

ドアの前に立つ背の低い女性――

夏日星朱美だった。

「うわっ! 秀治じゃん! ひさしぶり!」

じつに5日ぶりの再会だった。

同じ工場で働く同僚だが、

3交代制のため、かぶらない人とは

けっこうかぶらない。

同じ職場なのに会うことがないと、

たった5日でもなんだか久しぶりなような

気がする。

夏日星朱美がカウンター席に座る。

秀治とはふたつ席をあけて座る。

朱美は秀治が苦手だった。

香水つけてるのがいけすかなかった。

「なんだよぅー朱美こっちこいよー」

秀治は腰をうかして朱美の横の席に移動した。

「別に、ほら、店すいてるし」

と一応笑顔で言う朱美。

「お、なんだ朱美ちゃん照れてるのかぁー?」

店主がはやしたてる。

「いや、そんなんじゃ……」

上着を脱ぎながら朱美が苦笑いする。

ふたりは同僚で、本当にただそれだけの関係だった。

「そうなんスよぉー、朱美照れるなよー」

しかし秀治はふざけてみる。

朱美の肩に気安く手など乗せたりする。

その瞬間だった。

ほとんど反射行動のような反応速度で

朱美の体が動いた。

「触るんじゃねえっ!」

背の低い朱美は斜め下からの角度で

秀治の顔面に掌打を打ち込んでいた。

席から転落して昏倒する秀治。

「あーっ、ごめん!」

「あーあ、秀ちゃん、伸びちゃってるよ。

 中華そばもう出来たのに」

「ごめん店長! それあたしもらうわ」

秀治のぶんの中華そばは朱美がおいしく頂いた。

お代は秀治の財布から払っておいた。

秀治が注文した中華そばだからだ。

秀治が犠牲となって

朱美は700円トクした。