訊いてみよう

明けたのか、新年?

暮れたのか、去年?

地球の自転も公転も平常運転だ。

ずっと平常。

しかしひとはニューイヤーで騒いでいる。

本当に何かが終わって何かが始まったのか?

始まったとされている当人に訊けば良い。

元旦さんに訊けば良い。

そうすれば何かわかるかもしれない。

あの。

「はい」

元旦さんですか。

「いや、ちがいますよ」

誰ですか。

「元日です」

うわあっ!

「どうしたんですか」

元日さんといえば、

元旦さんを内包する

大いなる存在じゃあないですか。

「しかし私は元旦がうらやましい」

どうしてですか。

「棒が一本多い」

多いと偉いのですか。

「偉いとか偉くないとかの問題ではない」

はあ。

「“旦”の字のあの横棒。

 何を表しているか知ってるか」

いえ、地面とかですか。

「そうだよ」

はあ。

「地面を表す横棒を持っているのだ元旦は」

ははあ。旦の字は初日の出を表してるんですね。

「そうだよ」

でも横棒のない“日”の字もいいじゃあないですか。

太陽そのものってことでしょう。

「いやなんか」

はい。

「地に足が着いてないみたいっていうか」

はあ。

「ふわふわした感じが私はいや」

うーん。

「……」

どうしましたか。

「なんか、あまり共感を得られていない気がした」

あー。

「地に足が着いてないというのはこれは

 大変に大変なことなのだ」

そうなのですか。

「うん、なんか、基準というか、

 一本芯が通ってないっていうか」

んー。

「そういうやつって私は信用ならないし、

 まず元日という、1月1日という暦が

 地に足が着いてないってどうなのだということだ」

まあ、はい。

「ひとは暦に従って生きてきたろう。

 それは暦にとって誇りなのだ」

誇りとかあるんですね。

「ちゃんとしている、

 間違いがない、

 地に足が着いている。

 それは矜持とさえ言えるのだ」

へえ。

「それなのに、

 地に足が着いてないみたいなのは、いや」

ははあ。

でも、“日”の字が使われてる暦なんて

いくらでもあるじゃあないですか。

「そうだよ」

ですよね。

「でも、元日には元旦という類似語がある。

 比較される」

あー。

「どっちかっていうと元日のほうが

 地に足が着いてない感じがするよね。

 という暦友だちの視線が私はいたい」

心労がたえない役職ですね。

「そうだよ」

うーん、でも。

「なになに」

いやほら、元日って、

1月1日という新しい一年のはじまりを

表してるじゃあないですか。

「そうだよ」

新しく何かが始まるとか始めるとかの

節目になるような日を表す言葉が

地に足着いててどうすんだってねえ。

「どういうことですか」

新しいことって、

新しく始めることって、

常にその先どうなるかが

わかってるわけでもなければ、

安泰が保障されてるわけじゃないじゃないですか。

「そうだね」

だからこそ、

挑戦なんです。

「挑戦なんですか」

はい。

やる意味があるんです。

先は見えないけど

何が待っているのか見たい。

そこに辿りつきたい。

ちょっとした無謀です。

地に足が着いたひとはそんなことしない。

「おお」

新年ってただの数字の切り替わりだけど、

暦に従って生きるわれわれにとっては

気分を切り替える節目です。

年が明けて数字が切り替わったら、

新しいことが始まる予感がする。

新しいことに挑戦したくなる。

「もっと言って気持ちいい」

それまで見たことないものを見たくなる。

それって素晴らしいことです。

「いいね」

素晴らしい人生ってなんでしょうか。

ぼくは常に新しい刺激を

求め続ける人生だと思うんです。

新しいって素晴らしいんです。

常に今とは違う何かを

求めるのって良いことなんです。

だから――

「うんうん」

地に足が着いてなくても良いじゃないですか!

「やっぱり着いてないんだ地に足」

いや。

「えーん (つд`)」

地に足が着いてないのは

わるいことじゃないという

話だったのですが。

「そうだったね」

そうですよ。

「いまあなたは」

はい。

「私に講釈を垂れたが」

まあ、はい。

「私を誰だと思っての狼藉だ!」

えー。

「元日だぞ元日」

はあ。

「私が居て困ることはない存在だぞ」

謙虚ですね。

「どういうことですか」

こちらとしては

居て困らないどころか

居なきゃ困るくらいに

思ってるのに。

「ホントニー? (゚o゚; 」

はい。

「アリガト (*^^)v 」

ではまあ、

そういうことで。

「少しだけ」

はい。

「少しだけ待ってほしい」

はあ。

「実際のところ私は」

はい。

「地に足が着いてないように

 見えますか」

えーと。

「最初みたときどういう印象でしたか」

いや、それは。

「うん」

地に足が着いてるとか着いてないとか、

考えもしなかったというか。

「そうなんだ」

だって暦ですし。

今までそれに従って

生活してきた年月だけの

信頼がありますし。

「いいね。なるほど」

納得してもらえましたか。

「でもさ」

はあ。

「最初、元旦を呼んだよね。

 元日の私じゃなくさ」

はい、まあ。

「どうしてですか」

どうしてって。

「何か訊くなら

 元旦に訊こう!

 と思ったわけだよね」

はあ。

「何か訊くなら

 地に足が着いてない元日より

 地に足が着いてる元旦にしようと

 思ったわけだよね」

そういうわけでは。

「ないと言えるの」

たぶん、はい。

「たぶんってさ。

 そんなので

 暦が納得するとでも思ってるわけ?」

いや。

「私だってさ、

 こんなこと言いたくないんだよ。

 でもあなたがハッキリした態度を

 取らないから

 こうして訊いてるんだよ」

んー。

「好きで責めてるわけじゃないんだよ。

 好きでいやな暦演じてるわけじゃ

 ないんだよ」

どうすれば納得してくれるのでしょうか。

「!! どうすればって…!」

え。

「それを私に訊くわけ!?」

全くわからないので。

「はぁー、もう。

 そしたらさ」

はい。

「あいつに訊けばいいじゃない」

はあ。

「元旦に訊けばいいじゃないって

 言ってるの!

 訊きたいことがあったら

 元旦に訊くんでしょ!

 なら訊けばいいじゃない!

 きっと地に足が着いた答が

 返ってくるわよ!

 私なんかじゃふわふわした答しか

 返ってこないものねどうせ!」

ごめんなさい。

「きこえません」

ごめんなさい!

「知らないっ」

わるかったです。

無神経でした。

「……(`ε´) 」

なんか難しく考えすぎてたんです。

だから、

思ってもないことを言ってしまって……

「……( -_-) 」

自分の気持ちに正直になるべきでした。

元日さん。

「……なに?」

ぼくにはあなたが必要です!

「うむ……

 それで良い」

良いんだ。

「そうだよ」

やっぱり地に足着いていないですね。

「なにがでしょう」

キャラが。

「 \(^o^)/ 」

えーと、

まあ、

あけましておめでとうございます^^v